新潟手術医学研究会発足と新潟大学医歯学総合病院手術部53年のあゆみ

 新潟手術医学研究会の前身は新潟手術室セミナーです。このセミナーは主に新潟県内の手術部、手術室看護師の教育とレベル向上を目的として年1回新潟大学医歯学総合病院手術部が開催してきたものです。第一回セミナーは1987年(昭和62年)10月23日に本学有壬記念会館で開催されています。1回目は招待講演を行い、信州大学の金丸 敬先生、北大の三浦哲雄先生をお招きしたそうです。以後1年あるいは2年おきに開催され、昨年で24回を数えるまでになったことから第4回セミナー(1994年開催)以降は毎年開催されていたことになります。当初は有壬記念会館で事足りていましたが、次第に参加者が多くなり、収容しきれなくなったためユニゾンプラザなどで開催するようになりました。近県からの参加者も含め最近では350名ほどの参加者となっています。このようなセミナーは全国でもあまり例を見ないとのことで、手術医学会からは高い評価をいただいています。このセミナーは前述のように新潟大学が主催して開催してきましたが、大学関連基幹病院にも積極的に参加していただくことを期待して2002年の第12回セミナーにおいて幹事会を立ち上げて活動母体を「新潟手術医学研究会(事務局は大学)」としました。翌年から基幹病院が持ち回りで当番を務め、当番病院の代表が会長となっています。この間新潟手術医学研究会として2004年7月3日に日本手術医学会からの依頼で、朱鷺メッセにて日本手術医学会教育セミナーを開催し、また2011年8月6日に日本医療機器学会からの依頼で、やはり朱鷺メッセで第12回機器と感染カンファレンスを開催しています。

 新潟手術医学研究会の歴史を語るためにはその母体となる新潟大学医歯学総合病院手術部の歴史をひも解かなければなりません。新潟大学医学部が創設されたのは1910年、今から105年前になりますが、手術部が中央化されたのは1962年7月でした。手術部が中央化されるまでは各科が専用の手術室を持つパビリオン形式で運用されていましたが、1962年7月に中央棟3階に5室の手術室を持つ中央手術部が発足しました。手術部を使用した科は外科、整形外科、脳神経外科、産婦人科の4科であったと記録されています。これから4年後の1966年6月に手術部は東診療棟4階に完成した11室の手術室を持つ2代目の手術部に移転しました。第2代手術部は1985年まで活躍し、多くの優秀な外科医、麻酔科医を育て、多くの患者を救うことになります。1966年に耳鼻咽喉科と眼科が使用科に加わり、7科が使用するようになりました。1969年には輸血部が設置されましたが、この年いわゆる大学紛争の嵐が吹き荒れたことを経験された方々も少なくなりました。

 新潟大学医学部創立75周年の年である1985年(昭和60年)8月に西診療棟が新築竣工し、同年12月22日から28日の間に中央手術部は第3代の手術室に移転しました。新潟大学医学部が75年の歩みを終え、76年目の歩みをはじめるのと時を同じくして移転したことになります。3代目手術部は1986年(昭和61年)1月8日から本格稼動をはじめました。
新潟大学医学部の76周年から100周年までの25年間のあゆみはまさに3代目手術部の歩みでもありました。この手術部は江口昭治部長(第二外科教授)、吉田圭介副部長が中心となって尽力され、斬新で科学的な考え方に基づいて近代的な工夫を凝らした当時としては東洋1の手術室といっても良い手術室となりました。構造は供給ホール型で、清浄度が極めて高く、清潔・不潔導線が完全に独立した供給に便利な手術室でした。
全国国立大学病院手術部会議資料集によれば年間手術件数は1984年の4,244件をピークとして次第に減少しましたが、「新大手術部30年のあゆみ」で手術部長の高橋栄明整形外科教授(当時)が、手術の高度化による手術時間の延長をその原因にあげておられます。当時の看護師は36名でした。3代目の手術部に移転してからも手術件数は減少を続け、1994年には3,276件まで落ち込みました。しかし、2003年の医療保険請求の包括化と2004年の独立行政法人化以降大学病院も特殊な例外ではなくなり、急性期病院として採算性を向上させる必要が生じたため、出来高払いの手術の必要性と重要性が高まり、手術件数は急激に増加することとなりました。2009年には、その数は年間6,000件となりました。
この25年間の歩みの中で手術室も増室が見られました。眼科などの局所麻酔手術の需要の増加から、東診療棟4階にあった処置室を改装して局所麻酔専用の手術室が増室され、2003年4月から運用が開始されました。さらに2003年11月に歯科が医科に統合されて医歯学総合病院となったため、手術部内の機材置き場と麻酔科医室の一部を転用して手術室を2室作り、2004年11月に竣工しました。
3代目の手術部では25年間の間に手術の申込みも手書きの用紙からコンピュータ入力となり、手術器械はコンテナ化され、覆い布やガウンはリネンからディスポの不織布に替わりました。手洗い法も田宮洋一副部長の努力で全国に先駆けてブラッシング法からもみ洗い法に変わりました。増え続けるインプラント手術に対応するため、手術室の清浄度を検証した上で2003年4月からは一般手術室で人工関節手術を行うようになりました。看護師も25年間で9名増加され45名となり、医師の器械出しもほぼ解消されました。
3代目手術室の25年間での手術の特徴を一言で言えば手術の高度化と先鋭化が急速に進んだことです。腹腔鏡下手術などの内視鏡下手術の発達、人工関節などのインプラント手術の増加、生体臓器移植手術の発達などがそれに当たります。また、ナビゲーション手術なども行われるようになりました。これらに伴いME器機も種類や数が増えて、専門の技師がいないと操作ができなくなっており、手術の過密化に対応するため手術管理もコンピュータ化され、まさにIT手術室の様相を呈するようになってきました。手術室に対するニーズの変化とIT化の必要性から、3代目手術室は手狭となり、ある意味で老朽化したといえます。
これらの問題解決のため2009年中央診療棟が新築竣工し、その2階と3階に第4代となる新手術室が完成しました。2009年9月に移転を行い、10月から本格稼動しています。新しい手術室は2階に居住区と4室の手術室を配し、3階は10室の手術室を持つ14室の手術室です。中央ホール型で外周を清潔供給廊下としている点がユニークです。装備としては内視鏡手術が行いやすい工夫と臓器移植に対する対応がなされ、CT手術室も1室設けました。データ処理を主眼とした手術支援システムも新たに構築し、コンテナも自動供給となっています。麻酔記録、手術看護記録も電子カルテ化、自動化され膨大なデータに対応するようにして、麻酔科医、看護師の負担軽減をはかっています。看護師52名、臨床工学技士常駐4名、放射線技師1名、検査技師1名、薬剤師1名となっています。

新潟大学医歯学総合病院手術部 堀田哲夫